大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)8557号 判決
原告
池田廣治
原告
池田アキ子
右両名訴訟代理人
大槻守
木村保男
的場悠紀
川村俊雄
松森彬
中井康之
被告
大阪府
右代表者知事
岸昌
右訴訟代理人
中元兼一
土井広
右指定代理人
清水貞作
外三名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実《省略》
理由
一茂が昭和五七年五月三日午後四時一九分ころ大阪府大東市竜間二七八番地の一〇先本件道路を自転車に乗つて南進中、転倒して北野博明の運転する一〇トン大型貨物自動車に轢過されて死亡したこと、及び被告が本件道路の管理者であり、本件道路は自動車交通量が多く本件事故現場周辺において道路と側溝部分に段差のあることは当事者間に争いがない。
二本件道路の設置管理の瑕疵及び責任
前記争いのない事実と<証拠>を総合すれば次の事実が認められる。
1 本件道路は、従前大阪生駒奈良線と称されたこともあり同線のうち本件事故現場を含む山地に位置する部分は阪奈道路と呼ばれ日本道路公団が有料道路として管理していた時期もあつたが、その後昭和五六年一二月に被告(但し、阪奈道路のうち奈良県域に属する部分は同県)に移管されてから以後は本件事故当時も被告が府道大阪生駒線として管理していた(被告が、本件道路の管理者であることは当事者間に争いがない)。また本件道路は北(奈良方面)行き上り線と南(大阪方面)行き下り線とが完全に分けられているが、上下線とも歩道と車道及び自転車道と自動車道との区別は設けられていない。
2 本件事故現場は下り線の府道大阪生駒線大阪方面終点より2.7キロポストから二六キロポストの間であり手前奈良方面から大阪方面に向つて長い区間にわたつてカーブしており、約七パーセントの下り勾配、約2.5ないし4.9パーセントの横断勾配(右(西)に向つて高くなり傾斜している。)となつている。同所の幅員は、地点により若干の差異はあるが、茂及び自転車が転倒していた2.7キロポストから南方約二〇メートル付近では路側帯及び側溝部を含めて約9.1メートルであり、うち東山側コンクリート部(高さ約0.41メートル)端から西端に向つて、側溝部約0.5センチメートル(則面を含む)、路側帯約1.09メートル、左車線約3.1メートル、右車線約三メートル、路側帯約0.85メートル、側溝部約0.56メートル(則面を含む)である。また側溝(排水施設)はコンクリート製の蓋で覆つてあるが、三〇〇メートルを若干超える範囲にわたり東側の側溝部分と路面との間に段差が生じ路面が側溝蓋表面より高くなつており、右段差は、段の始まる大防方面終点より2.9キロポストの表示板南方1.1メートル付近の地点で6.5センチメートル、2.8キロポストの表示板付近で四センチメートル、2.8キロポストと2.7キロポストの中間(2.8キロポストの表示板から南方46.2メートル)の地点で3.5センチメートル、茂が側溝に入つた2.7キロポスト地点付近で6.5センチメートル、茂の自転車ペダルの擦過痕がコンクリート側壁にみられた2.7キロポストから7.2メートルの地点で一〇センチメートル、茂及び自転車が転倒していた2.7キロポストから南方二〇メートルの地点で七センチメートルである。右段差は、道路のアスファルト舗装改修の際生じたものであり、段差が地点により異なるのは道路の横断勾配との関係から生じたものである。
なお、本件道路下り線の一日の自動車交通量は約三万台であつて道路構造令三条(昭和四五年政令第三二〇号)にいわゆる第三種第三級の道路に該当し、歩行者は一日平均三〇人弱、自転車は一日平均一〇数台程度の交通量である。
3 茂(中学三年生)は、本件事故当日同学年の友人三名と共にサイクリングを楽しみ奈良公園に遊んで大阪への帰路本件道路に差し掛つたのであるが、途中降雨の中を数珠つなぎになつて渋滞進行している自動車の左側横を直線道路では時速約三五キロメートルから四〇キロメートルで自転車(二六インチ、一八段変速、ブリジストンサイクリング車)を走行していた。茂は、本件事故現場に至るカーブでは自転車のスピードを落したものの2.7キロポストを過ぎた辺りから並進していた大型貨物自動車を避けようとして側溝部分に入り側溝蓋の上をふらつきながら自転車の運転を継続し側溝部左(東)側横のコンクリート側壁部にペダルを当て擦過痕をつける等して一〇メートルほど進行したところで側溝部分から乗車したまま自転車もろともはずみをつけて一段高くなつている右側道路に上がろうとしたが体勢を整えることができずに身体のバランスを崩し、自転車を側溝部分に残したまま茂の身体は右斜め前方に飛び出して倒れ、折から進行中の大型貨物自動車(左側後輪)に轢過され、頭蓋骨粉細骨折、脳脱出の傷害を負つて即死した(茂が大型貨物自動車に轢過されて死亡したことは当事者間に争いがない。)。
以上の事実が認められ<る。>
ところで、道路の設置又は管理の瑕疵とは、道路が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、本件道路に路面と側溝部分との間に段差が存することをもつて道路の設置管理に瑕疵があるというためには、本件道路の構造、場所的条件、利用状況、段差の程度、段差を生ずるに至つた経緯、事故の態様等を総合して右段差のあることが本件事故との関連で安全性に欠けるところがあるもの、すなわち自転車通行をするものにとつて具体的危険性が認められる場合であることを要するものというべきところ、殊に当該段差は側溝があることによつて生じているものであるが、側溝を設けていることはそれ自体排水施設として道路管理上必要なものであり、また路面の舗装補修の都合上ある程度の段差が生ずることは止むを得ないものであるから、まず段差の程度について検討することとする。
前記事実によれば、本件事故現場付近の路面と側溝部分との間の段差は、茂が側溝に入つた2.7キロポスト付近の地点で6.5センチメートル、コンクリート側壁に自転車ペダルの擦過痕のある地点で一〇センチメートル、茂が自転車とともに転倒した地点で七センチメートルであつて、本件道路が歩車道及び自動車道・自転車道の区別がなく自動車交通量が一日約三万台であり本件事故現場に至る前の道路部分がカーブになつており下り勾配が七パーセントであることを考慮しても、なお右程度の段差の存在それ自体が自転車等の通行にとつて具体的危険性を有するものとはいえず、かえつて、本件道路両側には路側帯が設けられており本件で問題となる左側で約1.09メートルの幅員があり、この路側帯の幅員は道路構造令三条にいわゆる第三種第三級にあたる本件道路としては同令七条(昭和五七年政令第二五六号による改正前のもの、同改正後は同令八条)の基準0.75メートル以上に沿うものであるとともに、実際上も自転車の通行に支障はないものと認められ、道路全体の構造としては通常の運転方法による自転車走行にとつて必要な安全性を具備しているものといえる。このことは、前示認定のとおり、本件事故が茂が側溝に入つたことそれ自体を直接の原因とするものではなく、むしろ茂が側溝に入つたまま約一〇メートルほど進行した後側溝から乗車したまま自転車とともに道路上に戻ろうとしその際体勢を整えることができず右側を走行する貨物自動車の方向に飛び出したという自転車操作上の不手際によつて転倒したことによるものであつて、本件段差の存在したことにより通常の方法で走行していた自転車が転倒したものではなく段差そのものが本件事故の直接の原因となつているものでないことからも明らかである。なお、本件道路について歩車道ないし自動車道・自転車道を区分することは、本件道路の利用状況が前示認定のとおり一日平均自動車は約三万台、自転車は一〇数台、歩行者は三〇人弱という実情にあることに照し道路幅全体をより効率よく活用するうえから道路管理者にこれを要請することはできないものといわなければならない。
従つて、本件道路の路面部分と側溝部分との間に前記程度の段差が存することをもつて本件道路について通常有すべき安全性を欠いていたものということはできないから、本件道路に設置又は管理の瑕疵があつたものということはできず、右瑕疵の存在を前提とする本訴請求は失当である。
三以上によれば、原告両名の本訴請求はその余の判断をするまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(吉田秀文 加藤新太郎 五十嵐常之)